記事の概要
平成26年6月に景品表示法が改正
従前から、景品表示法では、不当な景品類の提供や不当な表示(以下「不当表示等」といいます。)が規制され、事業者は景品表示法第4条第2項の規定により表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求められることもありました。
このため、事業者は、景品表示法を遵守するに当たって、景品表示法の考え方に則して、表示等の根拠を確認し、確認した資料を保管するなどの対応を採る必要がありました。
しかし、食品のみならず多くの分野にわたり不当表示事案が発生し(後掲)、これらを受けて平成26年6月に景品表示法が改正されました。
そして、改正後の景品表示法第7条第1項の規定により事業者に表示等の管理上の措置を講じることが義務付けられるとともに、その適切かつ有効な実施を図るために同条第2項の規定により指針が定められることになりました。
事業者が講ずべき表示等の管理上の措置の内容
表示等の管理上の措置として、事業者は、その規模や業態、取り扱う商品又は役務の内容等に応じ、必要かつ適切な範囲で、次に示す事項に沿うような具体的な措置を講ずる必要があります。
- 景品表示法の考え方の周知・啓発
- 法令遵守の方針等の明確化
- 表示等に関する情報の確認
- 表示等に関する情報の共有
- 表示等を管理するための担当者等を定めること
- 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
- 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
1から7までに示す事項に沿うような具体的な措置は、事業者の規模や業態、取り扱う商品又は役務の内容等に応じて、事業者自らが設定します。
これら1から7までに示された内容を以下に解説します。
景品表示法の考え方の周知・啓発
事業者は、不当表示等の防止のため、景品表示法の考え方について、表示等に関係している役員及び従業員にその職務に応じた周知・啓発を行う必要があります。
※ 「従業員」とは、表示等の内容を決定する又は管理する役員及び従業員のほか、決定された表示内容に基づき一般消費者に対する表示(商品説明、セールストーク等)を行うことが想定される者を含みます。
- 朝礼・終礼において、関係従業員等に対し、表示等に関する社内外からの問合せに備えるため、 景品表示法の考え方を周知すること。
- 関係従業員等が景品表示法に関する都道府県、事業者団体、消費者団体等が主催する社外講習会等に参加すること。
- 関係従業員等に対し、景品表示法に関して一定の知識等を獲得することができるよう構成した社内の教育・研修等を行うこと。
- 調達・生産・製造・加工部門と、営業部門との間での商品知識及び景品表示法上の理解に関する相互研修を行い、認識の共有化を図ること。
法令遵守の方針等の明確化
事業者は、不当表示等の防止のため、景品表示法を含む法令遵守の方針や法令遵守のためにとるべき手順等を明確化することが必要です。
なお、必ずしも不当表示等を防止する目的に特化した法令遵守の方針等を、一般的な法令遵守の方針等とは別に明確化することを求めるものではありません。
例えば、個人事業主等の小規模企業者やその他の中小企業者においては、その規模等に応じて、社内規程等を明文化しなくても法令遵守の方針等を個々の従業員(従業員を雇用していない代表者一人の事業者にあっては当該代表者)が認識することで足りることもあります。
- 法令遵守の方針等を社内規程、行動規範等として定めること。
- パンフレット、ウェブサイト、メールマガジン等の広報資料等に法令遵守に係る事業者の方針を記載すること。
- 法令違反があった場合に、役員に対しても厳正に対処する方針及び対処の内容を役員規定に定めること。
- 禁止される表示等の内容、表示等を行う際の手順等を定めたマニュアルを作成すること。
表示等に関する情報の確認
事業者は、
- 景品類を提供しようとする場合、違法とならない景品類の価額の最高額・総額・種類・提供の方法等を、
- とりわけ、商品又は役務の長所や要点を一般消費者に訴求するために、その内容等について積極的に表示を行う場合には、当該表示の根拠となる情報を
確認することが必要です。
この「確認」がなされたといえるかどうかは、表示等の内容、その検証の容易性、当該事業者が払った注意の内容・方法等によって個別具体的に判断されることになります。
例えば、小売業者が商品の内容等について積極的に表示を行う場合には、直接の仕入れ先に対する確認や、商品自体の表示の確認など、事業者が当然把握し得る範囲の情報を表示の内容等に応じて適切に確認することが通常求められます。
=全ての場合について、商品の流通過程を遡って調査を行うことや商品の鑑定・検査等を行うことまでを求められるものではありません。
1 企画・設計段階における確認等
- 企画・設計段階で特定の表示等を行うことを想定している場合には、当該表示等が実現可能か(例えば、原材料の安定供給が可能か等)検討すること。
2 調達段階における確認等
- 調達する原材料等の仕様、規格、表示内容を確認し、最終的な表示の内容に与える影響を検討すること。
- 地理的表示等の保護ルール等が存在する場合には、それらの制度を利用して原産地等を確認すること。
3 生産・製造・加工段階における確認等
- 生産・製造・加工の過程における誤りが表示に影響を与え得る場合、そのような誤りを防止するために必要な措置を講じること(誤混入の防止のため、保管場所の施設を区画し、帳簿等で在庫を管理する等)。
4 提供段階における確認等
- 企画・設計・調達・生産・製造・加工の各段階における確認事項を集約し、表示の根拠を確認して、 最終的な表示を検証すること。
表示等に関する情報の共有
事業者は、その規模等に応じ、前記3のとおり確認した情報を、当該表示等に関係する各組織部門が不当表示等を防止する上で必要に応じて共有し確認できるようにすることが必要です。
例えば、個人事業主等の小規模事業者やその他の中小企業者においては、その規模等に応じて、代表者が表示等を管理している場合には、代表者が表示等に関する情報を把握していることで足ります。
- 関係従業員等に対し、朝礼等において、表示等の根拠となる情報(その日の原材料・原産地等、景品類の提供の方法等)を共有しておくこと。
- 表示等の根拠となる情報(その日の原材料・原産地等、景品類の提供の方法等)を共有スペースに掲示しておくこと。
- 社内イントラネットや共有電子ファイル等を利用して、関係従業員等が表示等の根拠となる情報を閲覧できるようにしておくこと。
表示等を管理するための担当者等を定めること
事業者は、表示等に関する事項を適正に管理するため、表示等を管理する担当者又は担当部門(以下「表示等管理担当者」という。)をあらかじめ定めることが必要です。
表示等管理担当者を定めるに際しては、以下の事項を満たす必要があります。
- 表示等管理担当者が自社の表示等に関して監視・監督権限を有していること。
- 表示等管理担当者が複数存在する場合、それぞれの権限又は所掌が明確であること。
- 表示等管理担当者となる者が、例えば、景品表示法の研修を受けるなど、景品表示法に関する一定の知識の習得に努めていること。
- 表示等管理担当者を社内において周知する方法が確立していること。
例えば、個人事業主等の小規模企業者やその他の中小企業者においては、その規模等に応じて、代表者が表示等を管理している場合には、代表者をその担当者と定めることも可能です。
仮に、景品表示法に違反する事実が認められた場合、景品表示法第8条の2第1項の規定に基づく勧告等の対象となるのは、あくまで事業者であり、表示等管理担当者がその対象となるものではありません。
1.担当者又は担当部門を指定し、その者が表示等の内容を確認する例
- 代表者自身が表示等を管理している場合に、その代表者を表示等管理担当者と定め、代表者が表示等の内容を確認すること。
- 既存の品質管理部門・法務部門・コンプライアンス部門を表示等管理部門と定め、当該部門において表示等の内容を確認すること。
- 店舗ごとに表示等を策定している場合において、店長を表示等管理担当者と定め、店長が表示等の内容を確認すること。
- 売り場ごとに表示等を策定している場合において、売り場責任者を表示等管理担当者と定め、その者が表示等の内容を確認すること。
2.表示等の内容や商品カテゴリごとに表示等を確認する者を指定し、その者が表示等の内容を確認する例
- 商品カテゴリごとに異なる部門が表示等を策定している場合、各部門の長を表示等管理担当者に定め、部門長が表示等の内容を確認すること。
- チラシ等の販売促進に関する表示等については営業部門の長を表示等管理担当者と定め、商品ラベルに関する表示等については品質管理部門の長を表示等管理担当者と定め、それぞれが担当する表示等の内容を確認すること。
表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
事業者は、前記3のとおり確認した表示等に関する情報を、表示等の対象となる商品又は役務が一般消費者に供給され得ると合理的に考えられる期間、事後的に確認するために、例えば、資料の保管等必要な措置を採ることが必要です。
- 表示等の根拠となる情報を記録し、保存しておくこと。
- 製造業者等に問い合わせれば足りる事項について、製造業者等に問合せができる体制を構築しておくこと。
- 調達先事業者との間で、品質・規格・原産地等に変更があった場合には、その旨の伝達を行うことをあらかじめ申し合わせておくこと。
- トレーサビリティ制度に基づく情報により原産地等を確認できる場合には、同制度を利用して原産地等を確認できるようにしておくこと。
- 原材料、原産地、品質、成分等に関する表示であれば、企画書、仕様書、契約書等の取引上の書類、原材料調達時の伝票、生産者の証明書、製造工程表、原材料配合表、帳簿、商品そのもの等
- 効果、性能に関する表示であれば、検査データや専門機関による鑑定結果等
- 価格に関する表示であれば、必要とされる期間の売上伝票、帳簿類、製造業者による希望小売価格・参考小売価格の記載のあるカタログ等
- その他、商談記録、会議議事録、決裁文書、試算結果、統計資料等
- 即時に消費される場合又は消費期限が定められている場合には販売を開始した日から3か月の期間
- 賞味期限、保証期間、流通期間、耐用年数等に応じて定められた期間
- 他法令に基づく保存期間が定められている場合(法人税法、所得税法、米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(米トレサ法)等)の当該期間
不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
事業者は、特定の商品又は役務に景品表示法違反又はそのおそれがある事案が発生した場合、その事案に対処するため、次の措置を講じることが必要です。
- 当該事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- 前記1における事実確認に即して、不当表示等による一般消費者の誤認排除を迅速かつ適正に行うこと。
- 再発防止に向けた措置を講じること。
1.事実関係を迅速かつ正確に確認する例
- 表示等管理担当者、事業者の代表者又は専門の委員会等が、表示物・景品類及び表示等の根拠となった情報を確認し、関係従業員等から事実関係を聴取するなどして事実関係を確認すること。
2.不当表示等による一般消費者の誤認排除を迅速かつ適正に行う例
- 一般消費者に対する誤認を取り除くために必要がある場合には、速やかに一般消費者に対する周知(例えば、新聞、自社ウェブサイト、店頭での貼り紙)及び回収を行うこと。
3.再発防止に向けた措置の例
- 関係従業員等に対して必要な教育・研修等を改めて行うこと。
その他の措置の例
以上に示した措置のほか、次の措置を講じることも、不当表示等の防止のために有用です。
- 景品表示法違反の未然防止又は被害の拡大の防止の観点から、速やかに景品表示法違反を発見する監視体制の整備及び関係従業員等が報復のおそれなく報告できる報告体制を設け、実施すること。
- 表示等が適正かどうかの検討に際し、疑義のある事項について関係行政機関や公正取引協議会に事前に問い合わせること。
- 表示等が適正かどうかの検討に際し、当該業界の自主ルール又は公正競争規約を参考にすること。